占星術と蝉の声
映画館で初めて大人の映画を観たのは、中学1年生の春のこと。
フランコ・ゼフィレッリ監督の『ロミオとジュリエット』で、レナード・ホワイティング
とオリビア・ハッセー主演の夢のように美しい映画だった。
同行した母は、その昔映画化されたものを観ていて、中学生の娘に観せても安心と
判断したようだが、若いふたりの奔放なラブシーンに半ば呆れ、ロミオが全裸で
ベッドに横たわっているシーンに至っては、母娘の間に気まずい雰囲気が流れたものだ。
私的にも、オリビアの豊満すぎる胸とハスキーな声が、なんか蓮っ葉な感じで、
ちょっと抵抗があったが、ロミオのレナードは完璧に美しかった。
シェークスピアの原作では、ロミオは16歳でジュリエットは14歳という設定なのだから、
堅苦しい古典的な演出のものより、こちらのふたりの方がより原作に近いと言えるかも。
なんせ知り合って1週間たらずの内に、後追い自殺をしてふたりとも死んでしまうのだ。
なんという激情! 若気の至りも極まった感じなのだ。
この不幸な恋人達は、劇中ではstar-crossed loversと呼ばれている。英米文学には、
聖書や占星術からの引用がよく見られるが、star-crossedとは 西洋占星術で
グランドクロスのことである。星の配置が十字になっていて最悪の アスペクトとされる。
かのノストラダムスの大予言でも、地球滅亡の時は 、グランドクロスを組む星まわり
じゃなかっただろうか?
因みにその逆の幸運な星の配置は、星が三角を組むグランドトラインだ。
そんな訳で、英語を理解するには聖書や占星術の知識が必要なように、 日本では
お約束のことも欧米人には通じないこともある。 日本では夏を表す蝉の鳴き声も、
ヨーロッパでは馴染みのない昆虫なので、 鳴き声がノイズと間違われて抗議の電話が
来たりするので、フランスのテレビ局などでは、邦画の劇中の蝉の声を意図的に
消して放映したりするそうだし、日本の映画やドラマでは、女性がいきなり吐き気を
催し洗面所に駆け込めば、それは彼女が妊娠している事を表すけれど、欧米人には
ピンと来ない。 また写真立ての前に花が飾られていれば、日本ではその人が亡くなった
事を暗示するが、 これも欧米では特にそういう意味合いはない。
仏壇もテロップで表示しなければ、単なる箱型のオーナメントに過ぎない。
字幕翻訳をする際には、そういった場合、前後の字幕にその意味合いを入れ込む形で
分かり易い翻訳を心がけています。